こう見れば、鍾会はまだ太学生だった頃から書家として名高く、さらに32歳の時から結構熟達していた。
『書苑菁華』によると、鍾繇が死ぬ直前、鍾会が素質のある人間と見込み、書法についての秘術を教えたという。なので、鍾会はおそらく5歳から習字をし始めた。母親は教育係として、厳しく練習するよう訓誨していた。鍾会は、鍾繇の「大鍾」に対し「小鍾」と呼ばれた。これは書道の世界では、鍾会は鍾繇に近い名誉を得ていたことを意味する。
鍾会の直筆は唐の時代まで存在していて、その後は戦乱によって失われたという。文章は晋の南遷によって失われたのと比べて、結構ラッキーな方かもしれない。とにかく、鍾会の書法についての評価は、南北朝から唐まで集中していた。
◎唐李嗣真《書後品》:鍾、索跡雖少,吾家有小鍾会正書《洛神賦》,河南長孫氏雅所珍好,用子敬草書數紙易之。 ◎唐盧元卿《法書錄》:貞元十一年正月,於都官郎中竇眾興化宅見王廙書、鍾會書各一卷。 ◎唐竇蒙注:鍾會,字士季,潁川人,繇子,終魏徵西將軍。今見帶名行書一紙八行。
つまり、唐の時、鍾会が書かれた楷書の『洛神賦』と行書の作品、そして整理された鍾会書法作品集が一巻存在しているということ。『洛神賦』の作者は曹植、そして鍾会が書いた檄文には、曹髦の作品を参考した痕跡がある。鍾会は文学にたける曹一族に対し、敬意を持っているに違いない。
◎西晉張華:京兆韋誕子熊、潁川鐘繇子會,並善隸書。
西晉の書家・張華は「韋熊と鍾会、二人は隷書が得意」と言っていた。
◎羊欣《采古来能书人名》:繇子会,镇西将军。绝能学父书,改易邓艾上事,皆莫有知者。
鍾会は筆跡の真似がうまい。
◎南齊王僧虔《論書》:張芝、索靖、韋誕、鍾會、二衛,並得名前代。古今既異,無以辨其優劣,惟見筆力驚絕耳。
上述の者は、優劣の差がない。どれの書法も気迫がみなぎっている。(二衛とは衛瓘とその息子?)
◎梁武帝蕭衍《古今書人優劣評》:鍾會書有十二意,意多奇妙。
鍾会の書法には、十二種の趣が含まれている。とっても奇妙である。
◎梁庾肩吾《書品論》:分書法家上中下品,有十七人為上品、另有四十八人為中品,五十六人為下品。取三人為上品之上(張芝、鍾繇、王羲之),五人為上品之中(崔瑗、杜度、師宜官、張昶、王獻之),······索靖(幼安)、梁鵠(孟皇)、韋誕(仲將)、皇象(休明)、胡昭(孔明)、鍾會(士季)、衛瓘(伯玉)、荀輿(長胤)、阮研(文幾)此九人為上品之下。「士季之範元常(鍾繇),猶子敬(王獻之)之稟逸少。而功拙兼效,真草皆成。」
この本では、鍾会は「上品之下」、上下品に属する。(衛瓘も)鍾会は鍾繇の書法を真似ていた。王献之のように凛々しい字ではあるが、彼よりはもうちょっと飄逸さがある。ランクはちょっと低いが効率がいい、楷書草書どれもうまい。
☝(図 王献之の字)
◎唐李嗣真《書後品》:始於秦氏,終唐世,凡八十一人,分為十等。上中品七人。蔡邕、索靖、梁鵠、鍾會、衛瓘、韋誕、皇象。
秦から唐までの書家の中、鍾会は上中品に属する。(衛瓘も)
◎唐張懷瓘《書斷》:妙品九十八人。
隸書二十五:張芝、鍾會、蔡邕、邯鄲淳、衛瓘、韋誕、荀輿、謝安、羊欣、王洽、王珉、薄紹之、蕭子雲、宋文帝、衛夫人、胡昭、曹喜、謝靈運、王僧虔、孔琳之、陸柬之、褚遂良、虞世南、釋智永、歐陽詢。
行書十六:劉德升、衛瓘、王珉、謝安、王僧虔、胡昭、鍾會、孔琳之、虞世南、阮研、王洽、羊欣、薄紹之、歐陽詢、陸柬之、褚遂良。
章草八:張昶、鍾會、韋誕、衛恆、郗愔、張華、魏武帝、釋智永。
草書二十二:索靖、衛瓘、嵇康、張昶、鐘繇、羊欣、薄紹之、鍾會、衛恆、荀輿、桓玄、謝安、孔琳之、王珉、王洽、謝靈運、張融、阮研、王僧虔、歐陽詢、虞世南、釋智永。
鍾會,字士季,元常少子,官至司徒。咸熙元年,衛瓘誅之,年四十。書有父風,稍備筋骨,美兼行、草,尤工隸書,遂逸致飄然,有凌雲之志,亦所謂「劍則乾將、莫耶」焉。會嘗詐為荀勖書,就勖母鐘夫人取寶劍。會兄弟以千萬造宅,未移居,勖乃潛畫元常形像,會兄弟入見,便大感慟。勖畫亦會之類也。會隸、行、草、章草入妙。
鍾会の隷書・行書・章草・草書は妙品に属する。(一番高いレベルは神品、次は妙品)
☝(図1 鍾繇の隷書 大理帖 神品)
☝(図2 蔡邕の隷書 雅歌帖 妙品)
☝(図3 張華の章草 得書帖 妙品)
☝(図4 謝安の行書 中郎帖 妙品)
☝(図5 欧陽詢 張翰帖 妙品)
☝(図6 虞世南 賢兄帖 妙品)
鍾会の字は父親に似ているが、やや筋骨が備わる。字の構造を重視していて、行書や草書は姿が美しく、特に隷書に秀でる。飄然として高尚な趣があって、凌雲の志がある。そして、鍾会は中国における名剣干将・莫耶に例えられた。(ここはなんの意味なのかちょっとわからない・・・いい父親を持っていながらよく頑張ったと言いたいのだろうか)
その中、衛瓘の名前は何度も出た。衛瓘の章草は神品に、小篆・隷書・行書・草書は妙品に属する。
実は「凌雲の志がある」という評価を受けた書家はもう一人ある。それが米芾という北宋の書家である。
☟(参考に米芾の作品を添付する 図)
◎唐張懷瓘《書估》:蔡邕、張昶、荀勖、皇象、韋誕、鍾會。度德比義,崔、張之亞也,可微劣右軍(王羲之)行書之價。——以上六人第二等。
蔡邕、鍾会、荀勖……これらの作品は王羲之のより値段がちょっと低い、二等に属する。
◎唐張懷瓘《書議》:
其有名跡俱顯者一十九人,列之於後:
崔瑗、張芝、張昶、鍾繇、鍾會、韋誕、皇象、嵇康、衛瓘、衛夫人、索靖、謝安、王導、王敦、王廙、王洽、王珉、王羲之、王獻之。
然則千百年間得其妙者,不越此數十人。各能聲飛萬里,榮擢百代。……今雖錄其品格,豈獨稱其材能。皆先其天性,後其習學,縱異形奇體,輒以情理一貫,終不出於洪荒之外,必不離於工拙之間。然智則無涯,法固不定,且以風神骨氣者居上,妍美功用者居下。
真書:逸少第一、元常第二、世將第三、子敬第四、士季第五、文靜第六、茂弘第七。
章書:子玉第一、伯英第二、幼安第三、伯玉第四、逸少第五、士季第六、子敬第七、休明第八。
草書:伯英第一、叔夜第二、子敬第三、處衝第四、世將第五、仲將第六、士季第七、逸少第八。
歴史に残るほどの書家は千百年にわたってこの数十人しかいない。鍾繇、鍾会、嵆康、卫瓘など。この者たちは生まれつきの素質を持っていて、努力家でもある。書風は違うが、芯は同じで気骨がある。
楷書:☟鍾繇(図1 宣示帖)が第二位、
☟王献之(図2 洛神賦 鍾会も同作がある)が第四位、鍾会が第五位
章草:☟卫瓘(図 頓首州民帖 現存する唯一の作品)が第二位、鍾会が第六位
草書:☟嵆康(図1 想雨帖)が第二位、
☟王廙(図2 二月十六日帖)が第五位、鍾会が第七位
◎唐韋續《墨藪·九品書》:上下十三人。漢武帝行草八分、漢張彭祖行草、魏鍾會八分、晉庾亮妻荀夫人正行隸篆、晉庾翼行草、晉謝安行草、晉桓溫行草、晉虞安吉正草大篆、宋羊欣草隸、陳智永禪師正草、晉王洽八分隸、梁武帝正行草篆、晉庾亮行草。
鍾会の八分(隷書の書体の一種で、一般的に隷書というときは八分隷を指す)は上下品に属する。
◎唐竇臮《述書賦》:觀士季之軌轍,審鍾家之超越。將遺古而偕能,與象賢而蹈拙。如後生之可畏,實氣蓋於前哲。
鍾会の作品は先賢と並べるのを見て、まさに後生畏る可し。
◎唐張彥遠《法書要錄》:引梁庾元威《論書》目鍾會為九品中的「上品之下」。
『法書要録』では、『論書』を引用し、鍾会は上下品に属すると言った。
これまでは鍾会の書法についての評価である。